最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)619号 判決 1961年4月27日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人弁護士津島宗康の上告理由第一点、第二点について。
しかし、本件山林を被控訴人(被上告人、原告)が買受け判示のごとく未登記のまま長年月を経過したこと、控訴人(上告人、被告)長野がこれを十分熟知しながら判示意図の下判示経緯で判示低廉な価格で買受け、判示仮処分に関する経緯の下で登記を得、その仮処分が判示のごとく回復されたこと、控訴人らが判示のごとく刑事訴追を受けたこと等に関する原判決の事実認定は、挙示の証拠並びに争のない事実を綜合すれば、これを肯認できないことはない。そして、その認定した事実関係の下において控訴人長野が大久保貞良と通謀の上本件不動産の横領を企てたものというべく、本件山林につき控訴人長野と貞良との間に締結された売買契約は、公の秩序、善良の風俗に反する行為であつて無効たるを免れない旨、並びに、従つて、控訴人長野は、民法一七七条にいわゆる「第三者」に該当しない旨の原判決の判断は、いずれもこれを正当として是認することができる。所論引用の判例は、すべて本件に適切でない。それ故、原判決には、所論の違法は認められない。
同第三点について。
しかし、原判決は、本件山林についての大久保貞良と控訴人長野との間の判示売買契約が無効と認められること前叙説示のとおりであるから、仮に本件山林につき被控訴人のなした処分禁止の仮処分が適法有効に取り消され、その有効な取消後に貞良より控訴人長野への所有権移転登記がなされたとしても、控訴人長野は本件山林につきその所有権を取得するに由ないこと明らかであると判示しており、その判示は正当である。されば、所論は、原判決に影響を及ぼさない法令違背の主張に帰し、採るを得ない。
同第四点について。
しかし、原判決は、所論のごとく単に本件山林の代金が著しく廉価の故だけで横領の共謀となり公序良俗に反し無効だと認めたものでないことは、その判示に照し明白である。しかのみならず、裁判所は当事者が特に民法九〇条による無効の主張をしなくとも同条違反に該当する事実の陳述さえあれば、その有効無効の判断をなしうるものと解するを相当とする。そして、原告(被控訴人、被上告人)は、一審以来大久保貞良と被告長野は共謀の上本件不動産を横領して刑事訴追をうけその他原判示のごとき仮処分に関する不法行為をした旨の主張をしていることが明らかであるから、原審が判示事実認定の下にこれを公の秩序、善良の風俗に反し無効であると判断したからといつて、所論の違法あるということはできない。
同第五点について。
論旨第一点ないし第四点の採ることができないことは、すでに、同論旨について述べたところである。されば、これらの論旨の理由あることを前提とする本論旨も採ることができない。
同第六点について。
しかし、民事訴訟用印紙法四条は、「本訴ト反訴ト其目的カ同一ノ訴訟物ナルトキハ反訴ノ訴状ニ印紙ヲ貼用スルヲ要セス」と規定するところ、原判決は、本件反訴請求と本件本訴請求とは、同一の不動産に関する請求ではあるが、その請求原因を異にし且つ訴訟物すなわち審判の対象となる権利または法律関係が同一であるとはいい難い旨判示しており、その判示は正当として是認することができる。右の判示によれば、本件では右の法条の場合に当るものでないことは明白であるから、本件反訴には印紙の貼用を要するものとした原判決は正当であつて、所論の違法は認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官の全員一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)